AOPA-JAPAN Fly In

金環日食・フライインよもやま
  AOPA-JAPAN  箱崎 順之

  『指輪をくれる?ひとつだけ。2012 年の金環食まで待ってるから』心に響く詩を書き続けているドリカムの吉田美和さん は、1990 年にリリースしたアルバム『時間旅行』で、こう歌っていた。
 たゆみなく流れる宇宙の営み。その中での一瞬のイベントを切り取り、自身の未来予想図を重ねて歌ったセンスが光る。5月21日が 近づくに連れ、この曲を耳にした会員も多いことだろう。吉田さんは22年後の今年3月、悲しみを乗り越え歌詞の通り結婚を果たした。金環食はDreams Come Trueの文字通り、彼女の太陽の指輪(リング)となった。前回、高輪で開催し講師を務めさせていただいた 航空気象ハンガートークの席上、上原多香子の祖父が元沖縄気象台の台長であったという素晴らしいトリビアがまったくウケなかったばかりでなく、ブーイングに近いリアクションに傷ついた筆者であるが、今回も性懲りもなく芸能ネタでスタートしてみた。
 ところで宇宙と言えば、数多くの苦難を乗り越えて60億km を飛行し、小惑星イトカワのサンプルをかかえ帰還したはやぶさに、日本中が感動したのは2010年6月だった。
 経済不況に喘ぐ日本が世界一になった瞬間、あらためて宇宙の広さに驚嘆し、多くの苦難を乗り越え、故郷地球にたどり着いたはやぶさのドラマに、涙した同胞も多かったろう。
 映画にまでなったはやぶさの『生きざま』に感動し、頭の中のスイッチが入り、にわか天文ファンとなった人も多いそうだ。実はかく言う私もその一人ではあるが。
 この心理は、ドラマに影響を受け足繁く韓国に通いつめ、せっせとかの国の経済に貢献し続ける女性韓流ファンのそれに似ているかもしれない。
 そもそも私は、航空気象についてならば三度のメシの次に好きな分野ではあるが、夜は女性と過ごす時間帯と決めて生きてきた都合上、お星様の世界とはあまり縁がなかった。
 どこかフライインしたい場所はないかという事務局の問いかけに、たまたま覚えていた金環食を、観測可能な静岡空港まで見に行くのはどうか、と提案したのがいけなかった。
 それ以降、なぜか私が天文の世界に詳しいという事になってしまったようだ。
 勘違いも甚だしい。
 気象学と天文学は、ペ・ヨンジュンとチャン・グンソクほど違いがあるのだ。
 事務局のH女史( 元CA )はきっとその乗員生活の影響で、ジェット機の翼に点滅するランプが、次第に星のまたたきと区別がつかなくなったのだろう。
 経緯はさておき、言い出しっぺとなった私には観測前夜に日食の解説をするというお役目と、このニュースの原稿執筆とがセットになって訪れることになった。
 さて今回の金環食であるが、たしかに月や太陽は観測対象としては大きい。とはいえ小型機から観測をする事や、ましてや撮影するという作業はとても難しいという事が、既に2009年7月22日のAOPA皆既日食フライインの時の貴重な経験となっている。
 そこで、同じ轍を踏まないためにも今回は地上からしっかり見てやろう、という事になった。
 本来はエプロンで金環食が始まる時間まで待機し、天候が悪い場合は離陸してベストスポットを探すような前回同様の『枕崎方式』も代替案として考えたのだが、静岡空港の運用時間の関係で、今回は空港横の展望台で一発勝負に掛けることになった。
 皆既前夜、日食の原理や観測についての諸注意などをレクチャーさせていただいた後に、会員機に加え遠方から陸路で駆けつけて下さった会員の方々と盛り上がった。
 お約束の大宴会の写真から、天候の話題は絶対に口にしてはいけないような、ビミョーな雰囲気を感じとっていただけるだろうか。
 実は世紀の天体ショーが近づくに連れ、TVの特集番組などで解説される当日の天候は、ほとんど絶望的なものばかりであった。季節がら、太平洋上に停滞前線があるために緯度が高いほど、つまり北へゆくほど天候に恵まれるという皮肉な気象条件が予想されていたのだ。
 当日の朝、二日酔いと寝不足をキャンバスに表現したようなどんよりとした空の元、集合した静岡空港にはすでに地元の皆さんが百人規模で集まっていた。
 『山梨の自宅の方が見られたかもしれない・・・』と、この日のために最新式の望遠レンズとカメラを買い込んで臨んだ、今橋会長がボソリとつぶやく。
 だが時おり小雨がパラつく中ではあったが、はたして日食が始まる時間には金色の太陽が顔を出し、見事なリングを我々に見せてくれた。
 100年にも届かない我々の一生に比べ、何千何万年という膨大な時間のサイクルで繰り広げられる宇宙の営み。そのシナリオが作り出した偶然に、多くの人 の執念が通じた瞬間だった。
 あちこちでバンザイの声が聞こえる。
 400分の一の小さな月であっても、しかし400倍近ければ大きな太陽を隠すこともできる。
 世界中で、小が大に飲み込まれる日常の中にあって、少しだけ勇気づけられるような出来事ではなかっただろうか。
 次に金環食が見られるのは2030年6月の北海道。
いい季節だ。ドリカムも18年後の北海道コンサートを計画しているらしい。
 我々もぜひ、次回もまた太陽のリングを見にフライインしたいものだ。
 題して『緑の風に揺られ、北の大地が宇宙へ誘(いざな)うAOPA-JAPAN 2030 金環食北海道フライイン』
 ちょっと長いが、そそられる。
 その頃には、きっと会員の高齢化も進んでいるだろうから、介護付きのフライインになっているかもしれないが、それはそれで楽しそうな気がするし。
 飛行機の楽しみ方は人それぞれだと思うが、これからも飛びたい所へ飛び、見たいものを見て、会いたい仲間に会いたいものだと思う。
 どんな時代になってもGAの醍醐味は、案外変わってないかもしれない。
    
 
  筆者撮影の金環日食

 

静岡空港にフライインした会員機 



箱崎気象委員による「日食の勉強会」をしていただきました


前夜祭はすごい盛り上がりでした



雲の切れ目から世紀の金環日食を観測しました



観測を終えて