航空事故調査報告書より抜粋。

1998年9月に発生したこの事故は訓練不足の初心者が陥る典型的な事例です。
特に一部海外での不十分な訓練で免許を取得した様な場合、法制上は何ら問題が無くとも
未熟な技量での無理な飛行機操縦はただちに命を落とす事故に繋がります。
事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともにこの事例を多くの
初心の方々への教訓とさせて頂きたく掲載させていただきました。

1998/09/24発生 ソカタ式TB10型JA4147 茨城県稲敷郡阿見町
概 要
 個人所属ソカタ式TB10型JA4147は、平成10年9月24日、慣熟飛行のため、茨城県 稲敷郡阿見町の阿見飛行場で離着陸のみを実施する予定で離陸したが、雲上に出て機位を失い、迷走に 近い飛行をした後、霞ヶ浦上空を低高度で飛行中、17時05分ごろ、阿見町大字掛馬の湖岸から北へ 約1.5kmの霞ヶ浦湖面に衝突し、覆没した。
 同機には機長のみが搭乗していたが、死亡した。
 同機は大破したが、火災は発生しなかった。

飛行の経過
 JA4147は、平成10年9月24日、慣熟飛行のため、茨城県稲敷郡阿見町の阿見飛行場で場周経路を飛行し、離着陸を行う予定であった。

 (1) 同機が離陸するまでの状況は、阿見飛行場管理事務所の職員によれば、概略次のとおりであった。
 機長は、当日15時10分ごろ、阿見飛行場管理事務所の職員に、場周経路のみの飛行を行い、離着陸を2〜3回実施する旨を伝えるとともに、機体を格納庫から出すよう依頼した。
 同職員は、機長に霞ヶ浦飛行場の15時00分の定時航空気象実況通報値(METAR)を示し、また、「現在、霞ヶ浦飛行場は有視界気象状態ではあるが雲底800ft及びそれ以下の低い高度に雲があり、その雲が、阿見飛行場の場周経路(気圧高度800ft)にかかる可能性があると思われるので、十分注意するよう。」助言した。
 同機の離陸前の燃料搭載量は、9月19日に満タンに燃料搭載後、事故前日までの飛行時間に相当する使用量を差し引くと、約4時間30分飛行可能な量であった。
 同機は、機長のみが搭乗し、15時43分ごろ阿見飛行場の滑走路09から離陸した。その後同機は場周経路には入らず、機体は見えなくなった。  

 (2) その後の経過は、阿見飛行場内のあみフライトサービス(以下「フライトサービス」という。)、百里進入管制所(以下「百里レーダー」という。)及び霞ヶ浦タワーによれば、概略次のとおりであった。
 15時48分ごろ、フライトサービスは、同機から「雲が低く、北に飛んで雲の上に出てしまった。百里レーダーの周波数を知らせよ。」の旨を受信し、フライトサービスは、同機に「百里レーダーの周波数は120.1MHz」の旨を送信した。
 15時49分、百里レーダーは、同機から「阿見飛行場から離陸したが、雲の上に出てしまった。今から阿見飛行場に帰りたいが、雲の切れ間が見えない、レーダー誘導をお願いしたい。」の旨を受信した。百里レーダーは、同機を識別するため「JA4147 SQUAWK 1200 AND IDENT.」と、トランスポンダー操作を要求したが、機長から、「英語ではなく、日本語で送信して欲しい。」との要求があった。百里レーダーは、以後、日本語により送信を行ったが、同機からのトランスポンダーのアイデントの応答はなかった。また、同機からの機位通報が不正確であったため、百里レーダーは、同機を補足することに手間どった。
 16時00分になって、百里レーダーは、同機が百里飛行場の東約4nm付近を飛行しているのを確認できた。
 16時05分、百里レーダーは、北進している同機に、西に向けて飛行するよう助言した。その後同機は、百里飛行場の北北東約15nm付近で西に向かった。 
 16時08分、百里レーダーは、同機に「このまま阿見に着陸できない場合はどうしたいか、そちらの意志をお伝えください。」の旨を送信し、同機から、「どうすれば良いかわかりません。」の旨を受信した。
 16時10分ごろ、フライトサービスは、同機から「雲の上を飛行している、どうすれば良いか。」の旨を受信し、フライトサービスは、「東京方面は天候が良いので、守谷方面に飛行してはどうか。」の旨を送信した。
 その後、同機は、百里レーダーの助言を受けながら高度4,000〜6,000ftで飛行し、南進した。
 16時21分から同24分の間、百里レーダーは、同機が成田ターミナルコントロールエリアに近づいたため、同機に対し成田TCAと交信するよう再三送信したが、応答はなかった。
 成田TCAは、百里レーダーから連絡を受け、同機と交信を試みたが応答はなく、その後、霞ヶ浦タワーに、同機が高度を下げつつ北側から霞ヶ浦管制圏に進入しつつあることを連絡した。
 16時28分から、霞ヶ浦タワーは、日本語で同機の呼び出しを開始したが、同機からの応答はなかった。
 16時46分、霞ヶ浦タワーは、同機からの呼び込みを受信し、日本語で通信設定を試みたが、機長は「声が小さくて聞こえません。」等と応答するのみで、同機と満足に通信設定が出来ないため、百里レーダーから送られてくる同機の位置、高度、飛行方向、障害物情報を霞ヶ浦タワーが使用しているすべての周波数(3波)を利用して同時送信を続けた。
 16時49分及び同51分の2回、霞ヶ浦タワーは、同機が霞ヶ浦飛行場上空を高度約400ftで北東から南の方向へ飛行し、雲の中に消えたのを視認した。
 16時51分、霞ヶ浦タワーは、同機に霞ヶ浦飛行場への着陸の意向を確認したが、応答はなかった。16時55分、霞ヶ浦タワーは、同機から初めて「感度良好。」との応答を受信した。
 同タワーはその後も同機と交信を続け、「貴機の現在位置は阿見VORから10マイルウエストです。」等と送信したが、同機からは「10マイルウエストってどちらになりますか。」等と、タワーからの送信内容をほとんど理解していないような応答があった。
 17時00分以降も、霞ヶ浦タワーは、同機に呼びかけ続けたが、同機からの応答はなくなった。
 17時00分ごろ、フライトサービスは、同機から「阿見飛行場の使用滑走路は09か27どちらか。」の問い合わせを受信し、同機に「使用滑走路09。」と送信した。
 霞ヶ浦タワーは17時02分、霞ヶ浦飛行場の気象状況が計器飛行状態になったため、その旨を放送した。
 17時04分、阿見飛行場の北西2nmで、百里レーダーのレーダー画面から同機の機影が消えた。

 (3) 事故発生地点の北約3.5kmの霞ヶ浦湖畔にいた目撃者Aによれば、概略次のとおりであった。 
 土浦市田村町の霞ヶ浦湖畔を散歩中、17時05分ごろ、対岸のマリーナ方面から軽飛行機が高度を下げながら右旋回するのが見えた。同機は、30〜40mの高度で自分の目の前を高速で崎浜方面に飛行し、その後、高度を若干上げ、左に旋回し、雲が一番多いところに入り機影が見えなくなった。間もなく大きな衝撃音が聞こえたので、同機が墜落したのではないかと思って、霞ヶ浦方向を見たが、雲が低く垂れ込めていたため何も見えなかった。

 (4) 事故発生地点の南西約1.4kmの霞ヶ浦湖畔にいた目撃者B及びCによれば、概略次のとおり であった。 
 阿見町大室の船溜まり近くの堤防の上を散歩中、17時05分ごろ、バーンという大きな音がしたので霞ヶ浦方向に目をやると、約1kmの水面に水しぶきが上がるのがかすかに見えた。そこの水面に三角の黒い物体が浮いていたが、2〜3分間で水中に沈んでいった。その時の天候は、曇っていて雲が低く垂れ込め、普通4km先に見える対岸も見えなかった。

 (5) 阿見飛行場の関係者によれば、概略次のとおりであった。 
 17時00分ごろ、同機と思われる航空機が阿見飛行場付近を低空で通過するエンジン音が聞こえたが、機影は見えなかった。17時05分ごろ、霞ヶ浦に機体が墜落したと思われる衝撃音を聞いた。

 9月24日17時26分ごろから、同機の捜索救難活動が実施され、9月27日11時58分ごろ、霞ヶ浦の湖底に覆没していた機体が引き上げられ、機長の死亡が確認された。 
 事故発生地点は、茨城県稲敷郡阿見町掛馬の湖岸から約1.5kmの霞ヶ浦湖面で、事故発生時刻は、17時05分ごろであった。
 (付図1及び写真1,2参照=省略)  

気象に関する情報
 天気概況等 
 (1) 事故当日11時に水戸地方気象台が発表した茨城県地方の天気概況は、次のとおりであった。
 前線が関東から中部地方を通って西日本に延びています。一方、日本の東海上には高気圧があって本州付近に張り出しています。
 関東北部の山沿いは、昼過ぎまで晴れますが、前線の影響で次第に曇る見込みです。
 (2) 事故当日12時45分、水戸地方気象台は、茨城県南部に雷及び濃霧注意報を発表した。その内容は、次のとおりであった。
 大気の状態が不安定になっています。このため、茨城県南部ではこれから夕方にかけて、所々で雷雨となる恐れがありますので、落雷、降ひょう、突風などに十分注意してください。
 又、引き続き茨城県では霧の発生しやすい状態となっています。このため、明日朝にかけて所々で濃霧となり、見通しが陸上で100m以下、海上で500m以下となる所がありますので、船舶や交通機関は十分注意してください。
 (付図2、3参照=省略)

 事故発生地点の西5kmに位置する霞ヶ浦飛行場の事故関連時間帯の航空気象観測値は、次のとおりであった。 
 15:00 風向 080゜、風速 11kt、視程 12km、天気 - 、
      2/8 層雲 600ft、4/8 積雲 800ft、6/8 積雲 1,500ft、気温 23.5℃、露天温度 21.5℃、QNH 30.10inHg
 16:00 風向 070゜、風速 9kt、視程 9km、天気 - 、
      2/8 層雲 500ft、4/8 積雲 800ft、7/8 積雲 1,500ft、気温 22.8℃、露天温度 21.5℃、QNH 30.10inHg
 17:00 風向 050゜、風速 6kt、視程 8km、天気 - 、
      4/8 層雲 500ft、7/8 積雲 800ft、7/8 積雲 1,500ft、気温 22.4℃、露天温度 21.4℃、QNH 30.10inHg

 事故発生地点の北東約20kmに位置する百里飛行場の事故関連時間帯の航空気象観測値は、次の とおりであった。 
 15:00 風向 070゜、風速 10kt、視程 9km、天気 弱いしゅう雨、
      1/8 層雲 500ft、8/8 層雲 700ft、気温 21.5℃、露天温度 21.0℃、QNH 30.11inHg
 16:00 風向 070゜、風速 7kt、視程 4.5km、天気 弱いしゅう雨 もや、
      2/8 層雲 300ft、5/8 層雲 400ft、8/8 層雲 600ft、気温 21.0℃、露天温度 21.0℃、QNH 30.10inHg
 17:00 風向 030゜、風速 6kt、視程 2km、天気 弱い霧雨 もや、
      5/8 層雲 200ft、8/8 層雲 300ft、気温 20.5℃、露天温度 20.5℃、QNH 30.11inHg

 事故発生地点の南西約35kmに位置する下総飛行場の事故関連時間帯の定時航空気象観測値 (METAR)は、次のとおりであった。
 15:00 風向 210゜、風速 11/22kt、視程 10km以上、天気 - 、
      3/8 積雲 2,000ft、1/8 塔状積雲 2,000ft、BKN 不明 20,000ft、気温 29℃、露天温度 23℃、QNH 30.08inHg
      備考:塔状積雲 東及び北西
 16:00 風向 200゜、風速 12kt、視程 10km以上、天気 - 、
      3/8 積雲 2,000ft、1/8 塔状積雲 2,000ft、BKN 不明 20,000ft、気温 28℃、露天温度 23℃、QNH 30.09inHg
      備考:塔状積雲 南東及び北西
 17:00 風向 200゜、風速 8kt、視程 10km以上、天気 - 、
      3/8 積雲 2,000ft、BKN 不明 20,000ft、気温 27℃、露天温度 23℃、QNH 30.09inHg

 事故発生地点の北約3.5km付近の湖岸を散歩していた目撃者Aによれば、事故発生時の事故 発生地点付近の気象は、次のとおりであった。
 天気 曇り、風向 東、風速 約 2m/s、視程 1〜2km、雲底の高さ 約100m

解 析
 ◆ 機長は、適法な航空従事者技能証明及び有効な航空身体検査証明並びに適法な無線従事者免許を有していた。
 ◆ 同機は、有効な耐空証明を有して、所定の整備及び点検が行われていた。 
 ◆ 調査結果から、同機は事故発生まで異常はなかったものと推定される。
 ◆ 2.7に述べた気象に関する情報から、同機の離陸から事故に至るまでの間の気象は、概略次のとおりであり、次第に悪化していったものと推定される。
 (1) 同機が離陸したころの阿見飛行場の気象については、関連時間帯の霞ヶ浦飛行場の観測値から見て、場周経路高度以下の低い雲があった可能性がある。
 (2) 霞ヶ浦飛行場及び百里飛行場の観測値から、同機が雲上に出て飛行していた当時、これら飛行場付近では雲量が増すとともに雲底の高さが下がり、気象状況が悪化していったものと推定される。
 (3) 17時ごろには、霞ヶ浦飛行場の観測値で、最下層の雲が「4/8 500ft」、雲底800ftの雲が雲量「6/8」、視程が8kmとなっており、同飛行場周辺は、計器気象状態になっていたものと推定される。
 このころ、事故発生地点付近では、目撃者の口述から、雲底の高さが約100m、視程が1〜2kmと気象状況は悪かったものと推定される。
 ◆ 2.1に述べた飛行経過から、同機は、阿見飛行場で離着陸のみを実施する予定で離陸したが、雲上に出たため機位を失い、以後、迷走に近い飛行をしながらも、離陸約1時間後の16時50分ごろには霞ヶ浦飛行場付近に到達していたものと推定される。
 ◆ 17時00分ごろ、フライトサービスが同機から阿見飛行場の使用滑走路方向を確認する送信を受信した。このことから、機長はフライトサービスから東京方面は天気が良いので、守谷方面に飛行してはどうかとの情報を得ていたものの守谷方向に向かわず、同飛行場に着陸する意図であったものと考えられる。
 ◆ 目撃者の口述及び機体の破損状況から、同機は、気象状態が悪かった霞ヶ浦湖上を低高度で雲に出入りしながら飛行中、湖面に衝突し、覆没したものと推定される。
 このことについては、機長が高度判断を誤ったか、あるいは同機の飛行姿勢を維持できなかった可能性が考えられる。 
 ◆ 同機が飛行場に安全に着陸できなかったことには、機長の気象判断が不適切であり、また、機長が航空交通管制機関との交信を十分に行えず、気象状況の良い場所まで飛行しなかったことが関与したものと考えられる。

原 因
 本事故は、同機が、低高度で雲に出入りしながら飛行中、湖面に衝突し、覆没したことによるものと推定される。このことには、機長の気象判断が不適切であり、また、機長が航空交通管制機関との交信を十分に行えず、気象状況の良い場所まで飛行しなかったことが関与したものと考えられる。

参考事項
 本事故に関し、運輸省航空局は、平成10年10月7日、小型航空機所有者・使用者に対し、技術部長通達「小型機の安全確保について(空航765号、空乗第212号)」を発し、気象情報、航空情報等の確実な把握等、出発前の確認を確実に行うこと、気象や飛行方式に関するルールを守ること等、安全運航の確保について周知徹底を図った。 

公表年月日/報告書番号
 平成11年3月26日 航空事故調査報告書 99−2


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